SPDP Kimura法(2022年12月22日)

本年7月7日から9日にかけて行われた国際膵臓学会・日本膵臓学会は、3年ぶりに現地開催を主体に行われたほぼ最初の学会であった。それまでの学会は理事などの役員は別として、コロナ禍においてハイブリッドで行われることが多く、多くの会員はzoomなどのオンラインで参加していたのだ。国際学会も同様の移動の厳しさがあり、日本の入国制限の厳しさは世界の中でも群を抜いていて、外国からの日本入国はPCR検査の結果提示などを含め、かなりの障壁であった。

京都で行われた国際学膵臓学会で、ある日本の国立大学外科教授から、私の名前のついたKimura法は今やヨーロッパやアメリカを中心に全世界で使われている言葉となっていることを告げられた。

その頃たまたま約30年前の写真を見つけていたので、その写真を送ることをその教授と約束した。
その写真とは、私と当時ハーバード大学外科教授のWarshaw教授が一緒に写っている写真である(図1)。1990年、アテネで開催されていた国際消化器外科学会に留学中のドイツから出席した私は偶然Warshaw教授と出会い、食事を共にしたのである。

Warshaw教授はすでに1987年に尾側膵切除の時に脾臓を温存する方法を発表していた。この方法は脾動静脈を尾側膵とともに合併切除し、脾臓への血流は短胃動脈やその他の脾臓周囲の動脈から期待するものであった。

私が脾臓を温存する際に脾動静脈をも温存する方法を国際雑誌"Surgery"に発表したのはこの写真ののちの6年後の1996年であった(図2)。この脾臓温存尾側膵切除(SPDP)におけるWarshaw法とKimura法はそれ以降たびたび比較されることになっている。ありがたいことに脾動静脈温存するSPDPはKimura法として定着しつつある。

このことを目の当たりにしたのが、2022年12月15日(木曜日)に行われたVerona IPMN 国際研究会であった。22時(ヨーロッパ時間の14時)から行われたオンライン会議に参加したところ、ちょうど2年前から行われていたIPMNのリンパ節転移の頻度について発表があり、その時にSPDPにおけるKimura法 or Warshaw法 が検討された。IPMNのリンパ節転移率がSPDP:1/106(0.9%)、DPS:22/433(5.1%)とのことで、私は、外科医の術式判断に敬意を示すとともに、自分の名前で術式が呼ばれていることに感謝した。

IPMNはSPDPの適応になるかどうかは、この0.9%をどう評価するかの議論のあるところであるが、脾臓温存の価値を十分考慮して考えていくべきである。

Kimura法は腹腔鏡下の手術ではやや難度が高かったものの、手関節機能のあるダヴィンチ手術(ロボット)では手技が比較的容易となり、他の膵疾患についても適応を積極的に考えていくことができるであろう。

昔、高名な外科医に、「自分の名前が手術術式として残るのは羨ましい」と言われたことがある。
これまで自分の為し得た業績は多くはないが、この点では長い間外科学に没頭してきた神様のご褒美なのかな、と思っている。


図1


図2