医療法人社団全仁会 東都春日部病院 病院長
日本消化器外科学会名誉会長
山形大学名誉教授
東都大学臨床教授
木村 理



驚異のコロナ治療薬:ロナプリーブ(中和抗体カクテル)

効果のほどは温度版を見ると明らかである。

投与直前まで熱発が続いていた状態が、投与後5時間で上昇するが、翌日から微熱・平熱になってくる。(図1〜3)

コロナの中和抗体カクテル、ロナプリーブは、発症から7日以内の患者さんに有効で、重症化を防ぐ。

死亡率を減少させる。

われわれは積極的に酸素投与をしていない患者さんに投与している。

すなわち、ロナプリーブはCOVID-19 重症化リスク因子を持つ患者さんの重症化抑制、死亡リスク低下、症状消失までの期間短縮が臨床試験で示されており、これまでの8例の経験では、25分の点滴の後、約5時間して約39度の熱が出る、というのが平均的副作用と考えている。

翌日には微熱か平熱になり、次第に正常化する。

日帰りで点滴投与するのはやや難しいかと思う。

デルタ株をはじめとする複数の変異株に効果がある。

(院長百戦9月1日〜9月6日を改変・再掲)



木村理の「はとバス理論」

「はとバス HATO BUS」は現在観光のために使われているのではなく、コロナ患者の輸送に使われている。東京駅丸の内南口から大手町気象庁前のコロナワクチン集団接種会場前までを何台ものバスでバス内座席をソーシャルディスタンスにしながら行き帰りの面倒を見ている(図1〜3)。

病院もこの大災害時に、ベッドをコロナ患者さんのために使おう、医師もコロナ患者さんのために尽力しよう、というのが木村理の「はとバス理論」である。

すなわち、道具は使われなくては価値がない。使われて初めて意味のあるものになるということである。ワクチンの集団接種が開始される数ヶ月以上前までは、はとバスは駐車場にたまり、観光に使われることもなく、はとバスの運転手が「観光が冷え込んじゃってこの有様です」というニュースが流れていたことを記憶している人は少なくないと思う。
それが今やコロナで大活躍である。

病院のベッドも使われなくては意味がない。医師も看護師もできる力を総動員してこのコロナの大災害に手を貸すべきである。
内容的にできないことをやりましょうと言っているのではない。患者さんは病院に入院して朝昼晩食事が出、血圧を測り、体温を測り、熱が出ていれば「大丈夫ですか」と声をかけてもらうだけでどれだけ安心するかわからないのである。実際、熱発時のカロナールの飲み方や、ジクロフェナク座薬の使い方などは普通の医療の知識である。

吐き気のある時のプリンペラン点滴やナウゼリン座薬の投与、疼痛時のアセリオ点滴やジクロフェナク座薬の使用も、室内歩行可、シャワー可、も通常の入院時の基本指示とほぼ同様に対応すれば良い。もちろん患者さんの状況に応じて変えるのは当然であるが。

保健所に提出する発生届も特段難しいことを書くのではなく、多くは事務、看護サイドで判断・記入できることである。
病院一丸となってやる気があれば、このコロナ大災害に貢献できるのである。一隅を照らすことができる。

図の説明
図1.はとバスを降りて大手町のワクチン集団接種会場に向かう人々
図2.東京駅丸の内南口と大手町合同庁舎前(大規模接種センター)を巡回する「はとバス」
図3.はとバスとワクチン接種に携わる方たち



全国の自宅療養者に告ぐ!!
「コロナと栄養」
〜自宅療養者が命を落とさないために〜


ぜひみなさん栄養を十分に取ることを考えてください。肝に銘じてください。

発熱し、体力が落ちていたら、栄養を取らなくては十分な抵抗力がつきません。

ピザも食べ、スパゲティも食べ、ステーキを食べ、カロリーの高いものを十分にとって体力を回復してください。これがコロナと闘う基本的かつ最も重要なことになります。

もちろん味覚障害のある人は、ものを食べにくくなるのはわかります。胃や十二指腸に浮腫があって、なかなか食べにくい方もいらっしゃるのはわかります。しかし、それでもゼリーを冷やして食べる、栄養補助食品を摂取する、などカロリーをとにかく摂取することが重要です。しっかりした栄養摂取がなくてはコロナと闘う抵抗力も出ないのです。

電解質・ミネラル入りの飲料水(ポカリスエットやアクエリアスなど)を飲むことも重要です。水分摂取は十分に行ってください。

病院にかかれば、点滴でカロリーを補給し、栄養補助食品や食事の調節で治る方もいます。その機会が得られない方は是非自分の力で治すことを、自分の力でコロナを乗り切ることを考えてください。とにかく栄養・カロリーをしっかり取ることをお願いいたします。

当院では中和抗体カクテルを軽症の方に積極的に投与しております。
是非ご活用をお願いします。



コロナ真っただ中、歴史的時間を生き抜く!!

COVID-19の感染が7月31日に東京都で4,000人を超え、緊急事態宣言が6都道府県に8月2日から31日まで出されることになった。埼玉県も連日800人を超える日々が続いている。この第5波は鮮明になり、病床の逼迫がそこにある。

ワクチンを打っていない若者から中高年層が患者の主体となっている。以前とまったく変わっている。

コロナに罹患した若者や中高年層の症状は高熱や味覚障害、食欲不振、吐き気など様々で、その肺のCT像は、コロナ特有の間質性肺炎から、さらに進んで肺実質の肺炎を合併しているものなどさまざまである。巷ではアルコールを提供している店と、提供を自粛している店がくっきりと分かれている。酒を提供していない店舗で昼食をとる若者たちも、危機感が共有されていないような非マスク会話の嵐である。

ぜひ、若者もコロナの肺のCT像を共有し、自分の肺がそうなること、そうなりうることを強く想像して日々の行動を少しでも考えて欲しい。

2021年4月の第4週(第1回目)と5月の第3週(第2回目)で、354人分の東都春日部病院及び周辺の病院関係者のワクチンの接種が終わりました。ワクチン接種にご尽力いただいた職員・関係者各位に深く御礼申し上げます。

院内ではさまざまな職種(医師、看護師、検査技師など、清掃・食堂なども含む)を含め約290人の職員が接種を受けております。「是非当院でワクチン接種を受けたい」という非常勤の医師にも多数提供いたしました。

ワクチンのコンセプトは「より早く、より多数に」が原則です。素早く無駄にしないために、さらに院内感染クラスターを発生させない強い病院を作るために、4階及び5階の療養病棟の患者さんにも、ご家族の同意を得て先行接種いたしました。もちろん春日部市の保健所長の許可は受けております。アフタコロナの患者さんの受け入れも積極的に行なっております。

院長百戦」では3月に「PCR陽性とは何か」について論考し発表いたしました(図1)。重要なことはPCR陽性であることにさまざまな意味・状態が含まれるということです(東都春日部病院ホームページ「院長百戦」2021年3月)。

すなわち「PCR陽性」とは、
1. 無症状だがこれから2〜3日後に症状が出る、感染力がある状態。
2. 症状が出ていて、感染力がある状態。
3.発症せず、無症状だが感染力がある状態。
4.発症から10日以上経って、感染力がない状態。
5. 感染したが無症状で、感染から2〜3週間以上経っていて感染力がない状態。
6. 再感染した状態。
のどれかになるのです。4、5の場合はPCR陽性でも一般扱いでいい、何もしなくていいという驚愕の事実が含まれていました。
すなわち、感染力のみを問題として医療を行うとすればPCR陽性は金科玉条のものではなくなるということです。ウィルスの痕跡を見ている場合を念頭に置いた対応をしなくてはならない。ウィルスの痕跡を見ている場合には、その人を一般的な扱い(スタンダードプリコーション)としていいということです。

2020年1月以降新型コロナウイルス感染症によって、われわれの社会は大きく変化いたしました。その中で、病院では状況に対応するべく「とにかく院内感染を防ぐ」の強い意志を貫き続けており、ソーシャルディスタンスを心がけ(図2)、2020年6月からはCOVID-19対策委員会(委員長 木村理)(続いて第2派対策委員会、第3派対策委員会、現在は第4波対策委員会)を組織化し、より一層のコロナ対策に取り組んでおります。

多くの職員が集まる昼礼や会議、そして入院患者さんの面会等はすべてリモート(ZOOM)開催(図3)または併用(ハイブリッド)としております。当初はいろいろな不備もありましたが、私たちの意志の姿勢で、絶対にやると決めてやり続けているうちに、今では新しい日常(ニューノーマル)になってきております。そして、2021年2月8日にはZOOMオンラインシステムを利用した独自の院内学術集会(第1回東都春日部病院学術集会)を開催することができました。一方、診療においても、2020年3月より「テレ診察」を積極的に進め、2021年5月までで利用患者数が延べ832件となっております。

コロナとの闘いを勝ち抜くために、臍に力を入れ、日々努力を重ねております。
具体的、ここについては「院長百戦」をご参照ください。

写真の解説
図1:PCRとはCOVID-19がその人に感染しているかどうかを見ている。感染から10日経っても概念的にはCOVID-19の感染は続いているのだ。その後ウィルス量は漸減し、感染力は次第になくなっていく。人から人への感染力がなければPCR陽性か否かは関係ない、という考え方・臨床対応である。少しでもウィルス痕跡が残っていればPCRは陽性に出るが、扱いは一般でいいということだ。
図2:2020年4月ソーシャルディスタンスをとった昼礼。それまでは大会議室に職員が集まり、昼礼が行われていたが、2020年4月からは大小会議室及び2階の外来廊下を広くぶち抜いて使い、行われるようになった(2020年4月)。
図3:われわれの昼礼(2021年1月4日:院長年頭の挨拶)は2021年の年明けからさらに進化した。大会議室が密集することなく、各部門にiPADが行き渡り、それぞれの部署でZOOMに参加できるようになった。




院長・病院紹介

改めまして、2019年4月1日から東都春日部病院の病院長を拝命しております木村理です。きむらわたる、と読みます。よろしくお願いいたします。2017年に「木村理 膵臓病の外科学」を著しました。

私は、1979年に東京大学医学部を卒業、東京大学医学部肝胆膵・移植外科講師を経て1998年に山形大学医学部第一外科教授となり、20年8か月半の勤務ののち定年を迎え、2019年から東都春日部病院に勤務しております。

東都春日部病院では、膵頭十二指腸切除術、膵体尾部切除術、肝臓切除術、胃切除術、大腸・直腸切除術、胆嚢摘出術、そけいヘルニアなどの消化器・一般外科の手術や整形外科手術、泌尿器手術、形成外科手術が行われております。また救急医療(外傷、急性腹症、脳卒中、心肺疾患)・外来(高血圧、糖尿病、呼吸器疾患、消化器疾患、肝胆膵疾患、胆嚢胆管炎、内痔核、咬傷、膵IPMN、膵癌、超音波診断)も充実しております。外科チームでは膵頭十二指腸切除術、膵体尾部腫瘍の膵体尾部病変の脾臓・大腸・胃合併部分切除なども成功させております。大腸癌・直腸癌・胃がん・胆石症・そけいヘルニアの手術は日々普通に行っており、術後合併症も少なく患者さんは皆自分で歩いて退院しています。

コロナ対策、院内感染対策、災害対策、職員の健康管理(マスク、手洗い、体調管理、栄養指導)は徹底されております。患者さんを地域全体で診る地域連携の系列病院としての役割は欠かせません。

東都春日部病院は、20年以上住民とともに健康を守ってきた越谷北病院が、発展し新時代に相応しい診療システムを有する鉄筋5階建て新築病院として2015年(平成27年)7月1日に移転開院したものです。東都春日部病院の位置する埼玉県東部地区は全国的にみて高齢化率が高く住民当たりの医師の数が少ない地域です。東都春日部病院はこれまでの人的知的財産を受け継ぎ、高齢化社会に対応するべく新たに街づくりの一環となる病院を目標としています。

全ベッド数184床(一般病床76床、療養病床108床)5階建ての病院で、急性期から慢性期まで各科専門医師をそろえ、人工透析部、リハビリテーション部・管理栄養部という高齢者医療に欠かすことが出来ない部門を有しています。画像診断システムとして、CT・MRIを含む最新の医療機器を備えています。電子カルテによる医療情報を統合し、患者さん及びご家族に検査・画像データをわかりやすくご説明・ご報告しております。さらに小児から老齢期までの各年代・各疾患・外科・内科診療部門を有し幅広い疾患に一貫した治療を行う体制を整えております。

近隣の医師や市立病院、大学病院と連携し、医師・看護師・理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・薬剤師・管理栄養士・放射線技師・臨床工学師、事務職員すべての力を尽くして地域住民の皆様に安心できる医療を提供し地域貢献が出来ることを目指します。もちろん世界中からの患者さんを受け入れております。

それぞれの職員が顔の見える職場を構成し、相互の理解が非常によく、一致して患者さんを診ることのできる理想的な病院になっておりますので、安心してどの職員にもお声がけいただければと思います。



木村理 略歴

氏名 木村 理(きむら わたる)
現職 東都春日部病院 病院長
日本消化器外科学会名誉会長
山形大学名誉教授
東都大学臨床教授
ハルピン医科大学 客員教授



学歴

1979年3月 東京大学医学部卒業
1988年4月 医学博士取得



職歴

1979年 東京大学医学部(第一外科、胸部外科、小児外科、麻酔科)医員
1980年 キッコーマン総合病院外科医員
1983年 東京大学医学部第一外科講座医員
1984年 東京都老人総合研究所臨床病理学部門研究員
1987年 獨協医科大学越谷病院外科講師
1990年 ドイツ、ヴュルツブルグ大学研究員(アレキサンダー・フォン・フンボルト奨学生)
1992年 東京大学医学部第一外科講座助手
1997年 東京大学医学部肝胆膵・移植外科講座
1998年 山形大学医学部外科学第一講座(消化器・乳腺甲状腺・一般外科) 教授
2006年 山形大学医学部附属病院副病院長(2006〜2013)兼務
2010年 山形大学医学部外科学第一講座(消化器・乳腺甲状腺・一般外科) 主任教授(主任教授制への移行による名称改変)
2013年 山形大学医学部副学部長 兼務(2013〜2019)
2015年 山形大学医学部図書館長 兼務(2015〜2019)
2017年 山形大学大学院医学系研究科医学専攻外科学第一講座 主任教授(大学院大学制への移行による名称改変)
2019年4.1 山形大学名誉教授/東都春日部病院 院長



称号

2019年(令和元年)4月1日 山形大学名誉教授
2019年(令和元年)6月10日 日本消化器外科学会 名誉会長・名誉会員
2019年(令和元年)6月5日 日本食道学会 特別会員
2019年(令和元年)6月5日 東北外科集談会 特別会員
2019年(平成31年)2月23日 日本消化器画像診断研究会 名誉会員
2019年(令和元年)6月14日 日本肝胆膵外科学会 名誉会員
2019年(令和元年)7月11日 日本膵臓学会 名誉会員
2019年(令和元年)10月2日 日本胆道学会 名誉会員 外国大学客員教授 ハルピン医科大学客員教授
2020年(令和2年)2月 日本臨床栄養代謝学会 名誉会員
2020年(令和2年)4月 日本外科学会特別会員
2020年(令和2年)4月 日本外科代謝栄養学会 特別会員
2020年(令和2年)7月 東都大学臨床教授
2021年(令和3年)4月 日本消化器病学会功労会員


木村理 受賞

1993年 平成5年度日本消化器病学会学術奨励賞
1997年 平成8年度東京大学医師会医学賞
1997年 ポーランド外科学会リディギエール賞(Rydygier賞)
2007年 山形大学医学部医療功績賞
2010年 山形大学医学部特別功績賞
2012年 山形大学医学部特別功績賞
2013年 山形大学奨励賞室内合奏団(顧問)



木村理 主催学会

第178回日本消化器病学会東北支部例会 仙台;2005年2月26日
第43回日本消化器画像診断研究会 山形;2005年9月23〜24日
第18回日本老年医学会東北地方会 山形;2007年9月15日
第12回日本外科病理学会学術集会 山形;2007年9月29〜30日
第20回日本肝胆膵外科学会・学術集会 山形;2008年5月28日〜30日
潰瘍病態研究会 第18回フォーラム,山形;2009年8月21日
第189回日本消化器病学会東北支部例会 山形;2010年7月9日
第8回日本乳癌学会東北地方会 仙台;2011年3月5日
第21回国際外科消化器科腫瘍科学総会 21st World Congress of the International Association of Surgeons,Gastroenterologists (IASGO2011 in Tokyo)東京;2011年11月9日〜12日
第43回日本膵臓学会大会 山形;2012年6月28日〜29日
第4回小切開・鏡視外科学会  山形;2012年11月9日〜10日
第25回日本内分泌外科学会総会 山形;2013年5月23日〜24日
日本外科代謝栄養学会第7回教育セミナー 山形;2013年6月15日
第24回日本老年医学会 東北地方会 山形;2013年10月5日
第49回日本成人病(生活習慣病)学会学術集会 東京;2015年1月10日〜11日
日本消化器病学会第201回東北支部例会 山形;2016年7月8日
第172回東北外科集談会・第98回日本胸部外科学会東北地方会・第30回
日本血管外科学会東北地方会・第87回日本小児外科学会東北地方会 山形;2016年9月10日
第24回日本消化器関連学会週間 JDDW 2016 KOBE 第14回日本消化器外科学会大会 神戸;2016年11月3日〜6日
第53回日本胆道学会学術集会 山形;2017年9月28日〜29日
第33回日本静脈経腸栄養学会学術集会 横浜;2018年2月22日〜23日



院長専門の病気(写真については今後順次掲載予定)

膵IPMNとは(写真2、3)
WHAT'S Intraductal Papillary Mucinous Neoplasms(IPMN)
木村 理
Wataru Kimura


膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)は大橋ら(文献1)が1982年に提唱した「粘液産生膵癌」をより広く臨床病理学的見地からとらえたものである。大橋らは「粘液産生膵癌」の特徴として粘液による1.Vater乳頭部の腫大、2.乳頭口の開大、3.乳頭口からの粘液の排出、4.主膵管の著明な拡張と陰影欠損像、をあげ、その後さらに4.予後の良い膵癌、という特徴を挙げて、通常の膵癌と異なる疾患概念であることを明らかにした。

1980年代には症例の発見と報告が多くなされ、疾患概念の確立のための議論がわが国で熟成していった。すなわち、「粘液産生膵癌」は腺腫と癌を含むことから「粘液産生膵腫瘍」という文言に変遷し、さらに主膵管の拡張と乳頭口開大の所見を呈するもの(後のIPMN主膵管型)を特に「いわゆる粘液産生膵腫瘍」と呼ぶようになった。その理由は、特徴の1つに挙げられていた主膵管拡張のない、分枝膵管の拡張だけが見られる膵管拡張型〜胞腺腫(duct−ectatic type、後のIPMN分枝型)が少し遅れて報告され(文献2、3)、並行して注目されてきたからである。

日本国内での多くの議論は、duct-ectatic typeが古典的な膵粘液性嚢胞腺腫・癌(MCN)と同列の疾患に入るのか、あるいは「いわゆる粘液産生膵腫瘍」と同列なのか、が様々に議論され、1990年代後半まで混沌としていたのである。IPMNの主膵管型・分枝型は、1990年代初め頃から徐々に「粘液産生膵腫瘍」の概念として扱われ始めたのであるが、duct-ectaitc typeがむしろMCNの枠に含まれるという主張も対側として残り続けた。

その論争に決定的な結論をもたらしたものが、多くのMCN(86%)の線維性皮膜や隔壁に組織学的に卵巣様間質が存在するという報告(文献4)であった。このことは、卵巣様間質が決して存在することのないIPMNとMCNが異なるものであるという認識の決定打となった。

1990年代中頃からは、わが国における膵癌取扱い規約第4版(文献5)、Armed Forces Institute of Pathology(AFIP)(文献6)、World Health Organization(WHO)(文献7)の膵腫瘍国際組織分類などによって世界的に定着してきた。このような疾患概念の確立と臨床・病理の場での高頻度の発見により、IPMNは本邦発の疾患として国際的に受け入れられ、さらにアップグレイドさてきた。2002年のIHPBA(Tokyo)(文献8)などさまざまな国際会議での議論を経て、2006年にはIPMN/MCN国際診療ガイドライン初版(文献9)が発行され、6年後の2012年には第2版(文献10)が出版された。IPMNの国際認識は進み、定義、手術適応、経過観察の方法、病理学的分類などに関して、ブラッシュアップされながら進化・発展しているところである。2017年には第3版のガイドラインができ、主にどのように経過観察をするかという点が付け加えられた(文献19)。

2.IPMNの診断と問題点

膵の腫瘍性嚢胞、そしてIPMNの理解を明らかにするためには、膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)と粘液性嚢胞腫瘍 (MCN)との疾患概念の違い、そして鑑別が重要である。先述のとおり、1990年代後半までIPMNの主膵管型と分枝型、MCNの線引きをどこでするかで議論がなされてきた。MCNとIPMNは膵管が嚢胞状に拡張するという点、および粘液を産生するという点からは共通している(図1)(文献11)。また、両者はいずれも膵管上皮由来で同一の組織像を示す。しかし、発生年齢、性、発生部位、卵巣様間質・被膜・膵管との交通・随伴性膵炎の有無などについての臨床病理学的特徴には大きな違いがある。すなわち日本膵臓学会膵嚢胞分類小委員会でも明らかにされたように、MCNとIPMNとは臨床病理学的に明らかに異なった疾患である。

このなかでMCNの定義として卵巣様間質が絶対必要条件であるかどうかということは問題になった。術前に鑑別診断をつけて手術適応を決めなくてはならないという臨床実務上、IPMNとMCNの鑑別は画像上で行うのがいいのではないかという考え方もある。つまり「MCNは肉眼的に球形で嚢胞全体を被包する固有の線維性被膜を有するもの、IPMN分枝型は拡張した膵管分枝が集合したもので全体の外郭は球形ではなく凹凸のあるもの」と、画像診断的あるいは肉眼的に定義するべきである、という考え方である(18)。すなわち、画像診断学的にMCNは「夏みかん」、IPMN分枝型は「ぶどうの房」(図2)と特徴づけられるのである(文献8、9)。

MCNと卵巣様間質との強い関係を主張したZamboniら(文献4)も、MCNの中の14%は卵巣様間質のないものがあること、それらは卵巣様間質のあるものより浸潤傾向の強いことを報告している。「術前の画像診断で分類をするべきである」という考え方(文献12)19.Kimura W.IHPBA in Tokyo,2002:Surgical treatment of IPMT vs MCT:a Japanese experience.J Hepatobiliary Pancreat Surg.2003;10:156−162.は、IPMN/MCN国際ガイドライン(第2版)(10)(文献10)における「IPMNの主膵管型、分枝型および混合型の肉眼型分類を画像診断的、組織学的のどちらで行うのかに関して初版では明確に記載されていなかった(9)(文献9)が、治療方針を立てるために重要であることから「術前の画像診断によって肉眼型分類は行われるべきで、切除後の標本検索ができる場合には組織学的分類によって後付け修正すれば良い」というところにも顔を見せている。

3.高齢者の小嚢胞性病変

通常型膵癌の発生機序における膵管分枝の限局性拡張性病変の意義については、これまで古くから報告してきた(文献13〜16)。高齢者剖検膵1374例を用い、約5mmおきの肉眼的観察で認められた約1〜2mm以上の膵管分枝の限局性の拡張性病変を臨床病理学的に検索した。上皮を異型度別に1群:正常、2群:過形成、3群:良悪性境界病変、4群:高度異型上皮、5群:浸潤癌に分類した。膵管分枝の限局性の拡張性病変は1374例中、378例、27.5%に認められ、その発生頻度は加齢とともに高くなった。膵管分枝の限局性の拡張性病変を有する268症例のうち、上皮の異型度は、正常47%、過形成29%、良悪性境界病変19%、高度異型上皮3.5%、浸潤癌1.2%に存在した。微小嚢胞は頻度の高い病変だけに、剖検例の知見を直ちに臨床にフィードバックさせることには慎重でなくてはならないが、通常型膵癌の早期診断に一つの突破口をひらくきっかけになることを期待できる。
またこれらのなかには、IPMNの芽とも思われる小病変が認められている。

4.IPMNの今後の展開と問題

IPMN/MCN国際ガイドラインの改訂版(第2版:2012年)(10)(文献10)が出版されて、IPMNの基礎および臨床的研究がさらに進みつつある。
1.ガイドライン2012(10)(文献10)に組み込まれた組織亜型を、ERCPで得られた膵液を検体材料として活用することによって今後の悪性度の予想の可能性が広がる。
膵液細胞診としては、いまだ異型度の判定に決定的なものが得られておらず、また膵液CEAについては膵管内を流れている膵液と嚢胞内に存在する膵液の濃縮度が一定でなく、これらによる良悪性診断の意義については今後の課題がある。
2.嚢胞壁の結節隆起は相変わらず悪性の指標として重要である。
3.悪性リスクを層別化するために悪性であることが強く示唆される”high-risk stigmata”(確診所見)に加えて悪性が疑わしい”worrisome features”(疑診所見)が新たに定義された(文献10)。初版では、high-risk stigmataとして壁在結節、主膵管拡張、細胞診陽性と記載されていたが(文献9)、2012年版では、造影される嚢胞内の充実成分、主膵管径≧10mm、閉塞性黄疸を伴う膵頭部の嚢胞性病変となった。
初版では壁在結節の無い嚢胞径30mm以上の分枝型IPMNの取り扱いに関しては、直ちに手術適応とするかどうかは今後の検討を要するとされていた(文献9)が2012年版(文献10)では、これはworrisome diseaseとされ、経過観察が可能となった(手術適応から一段ひきさげられた)。また、主膵管型の手術適応に関して、2012年版では、6mm以上の主膵管拡張を主膵管型と定義し、10mm以上の主膵管径は”high-risk stigmata”として手術適応とし、主膵管径が5〜9mmのIPMNに関しては、”worrisome features”ととらえ、さらなる精査を行うことを推奨している。
”worris ome features”についてはさらにそれらが適当かどうかの検証も現在行われている。第3版(文献19)では、嚢胞の増大、血清CA19〜9の上昇なども加えられた。
悪性の定義に関しては、2010年に改訂されたWHO分類でcarcinoma in situはIPMN with high grade dysplasiaと定義された(文献17)のと同様に、2012年版のガイドラインではcarcinoma in situはIPMN with high grade dysplasiaと定義された。IPMN with high grade dysplasia=carcinoma in situ,or=non-invasive carcinomaと明記しないと、浸潤癌のみを悪性とするとされたと解釈されてしまう恐れがあるので気をつけなくてはならない。われわれが目標にしていく手術はできるだけ多く悪性のものを切除するするのであり、予後からいったら、carcinoma in situ,またはnon-invasive carcinomaの段階のIPMNを診断し切除するのが最高の目標となる。
4.最新の病理学的Veronaのコンセンサスミーティング
Veronaのコンセンサスミーティング(2013)(文献18)では、high grade dysplasiaの中にもっとも異型の強いhighest-grade dysplasiaがあり、carcinoma in situとして世界的に使用されているが、この文言はあくまでも、non-invasive carcinomaと明示して使われるべきである、とされている。Non-invasive carcinoma(carcinoma in situ)の存在、文言を主張してきた日本の声が届いたと考えられ、より使いやすい病理分類となってきた。

嚢胞サイズの増大変化が加わった意義

IPMN 国際診療コンセンサスガイドラインが2017年に最新改訂版として発刊された。今回の改定は第3版に相当する。”worrisome features”の項目の一つに嚢胞サイズの増大変化が加わった。その意義は大きい。重要である。2年間で5mm以上の増大があれば”worrisome features”となるということである。
嚢胞が増大していくというのは、いくつかの意味を有する。

あ.粘液が嚢胞内の上皮から産生されていること。
い.交通していた膵管分枝が何らかの原因で閉塞し、どこにも漏れていかないこと。
う.流出する膵管分枝と主膵管との交通部分が狭いこと。
え.粘液が粘稠で流出しにくいこと。

これらが相まって嚢胞の増大が起こると考えられる。すなわち、粘液の産生量と流出量が同じなら、嚢胞の増大は起こらないはずである。粘液の産生量が流出量を超えたときに嚢胞の増大が起こる。これはある程度以上、嚢胞上皮の粘液産生の能力があることを意味する。また流出膵管分枝に閉塞機転があるとするとそれが悪性である可能性がある。また完全閉塞していても増大するならば、閉塞によって高まった嚢胞内圧にも負けずに上皮が生き残りさらに粘液を産生する能力をまだ有している、ということである。嚢胞内圧が高まれば嚢胞壁の血管も圧迫し、嚢胞上皮は疎血状態になるはずだがそれにも負けずに嚢胞上皮が粘液を産生できるだけの栄養や成分を供給する血管の新生や増生も加わっているはずである。また膵は後腹膜の臓器なのでまわりの結合織の圧力にも打ち勝って増大していく力があるということになる。

以上のような推察から、この嚢胞上皮は腫瘍性であり、しかも活発で変性しにくい強さを持っているということになる。悪性を考えてもいいということになる。これが”worrisome features”に入れられたのはある意味当然のことである。

嚢胞の増大が切除の適応条件に入ったことの臨床的意義は、この嚢胞の悪性度を推測するだけではない。嚢胞が一定の頻度で増大すれば、例えば17mmから45mmに10年間で増大したとする。この嚢胞はさらに増大することが予想される。後腹膜で増大した腫瘍性嚢胞はいつか破裂して細胞が間質にばらまかれるかもしれない。このような強い細胞は嚢胞内で浸潤能力を持たなくても間質に入ってゆっくりとさらに粘液が間質・後腹膜に漏れ広がって宿主に障害を与える可能性があるのである。腹腔内に破裂すれば偽粘液腫(pseudomixoma peritonei)のようなbenign-malignant、すなわち良性だが悪性の経過をたどるものになる可能性があるということである。

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